大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)21号 決定 1963年4月08日
抗告人 上夜久野農業協同組合
相手方 衣川弥之助
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
所論は要するに、競売法による不動産競売事件において、民事訴訟法第五四五条第五四七条により執行の停止を求めるためには、右の競売手続を許さない旨の形成の訴を提起しなければならぬに拘らず、本件において相手方の提起したのは債権及び根抵当権不存在確認並に根抵当権設定登記抹消の請求で確認及び給付の訴であるから、かかる訴に基いて競売手続の停止を求めるには仮処分の手続にのみよるべきである、という。
凡そ抵当権の不存在又は無効、或は被担保債権の不存在等を理由として競売手続の停止を求めるには、いわゆる任意競売が強制競売と異なり執行力ある債務名義を必要としないことから考えると、通常は抵当権の不存在確認等右に列挙した法律関係の確認を求める本訴を提起した上、競売手続停止の仮処分を求めるべきである。しかしながら、この方法があるからとて、その以外には競売手続の停止を求める方法は全く存在しないものと解すべきではなく、任意競売に付抵当権不存在確認の訴を提起することを、債務名義に基く強制競売の場合の請求に関する異議の訴の提起に相当するものと考え、従つて後者の場合に付ての民事訴訟法第五四七条以下の規定が前者の場合にも準用せられるものと解することも可能である(大審院昭和八年一〇月二〇日第五民事部、同判例集第一二巻二五六七頁参照)。而してこの場合の本訴の請求の趣旨が右抵当権の不存在等の確認であると、競売手続を許さずとの形成の訴であるとにより、相違あるものと謂うことはできないので、以上の解釈に反する抗告人の主張はすべて之を採用しない。
その他本件記録を精査するも原決定には違法の廉はないから、本件抗告は理由がないものとして、棄却し、主文のとおり決定する。
(裁判官 加納実 沢井種雄 加藤孝之)
別紙
抗告の趣旨
原決定を取消す
本件不動産競売手続停止の申立を却下する
との裁判を求める
抗告の理由
一、抗告人は昭和三六年九月二三日相手方に対しその所有の原決定添付別紙目録記載の不動産に債権極度額金三二五万円の根抵当権を設定させ同日金三二五万円を貸付け右根抵当権につき翌三七年八月二〇日京都地方法務局下夜久野出張所受付第五七九号を以て設定登記をした、然るに相手方は右貸付金を弁済期を過ぎても返済しないので申立人は同年一一月二二日京都地方裁判所福知山支部に右抵当不動産の競売の申立をしたところ同裁判所は同年(ケ)第一五号不動産競売事件として受理し同月二四日不動産競売手続開始決定をした
然るに相手方は同年一二月同裁判所に申立人を被告として債権並に根抵当権不存在確認及び根抵当権抹消登記手続請求の訴を提起したので、同裁判所は同年(ワ)第八六号事件として受理し目下訴訟進行中であるが相手方は昭和三八年二月七日同裁判所に前記不動産競売手続停止の申立をしたところ同裁判所は同年(モ)第八号事件として受理し同日右抵当権に基く別紙目録記載の物件に対する不動産競売手続は本案判決をするまでこれを停止する旨の決定をしたものである。
二、原裁判所が相手方の右不動産競売手続停止の申立を受理してその停止を決定したのは競売法による不動産の競売の手続に民事訴訟法第五四五条の債務者の請求に関する異議の訴の規定及びこの訴に関連する同法第五四七条の執行に関する仮の処分に関する規定を準用したものと解せられる。
競売法による不動産の競売手続に民事訴訟法第五四五条第五四七条の規定を準用することの可否については異論のあるところであるが、仮に準用せられるものと解しても原決定は左の点において違法である。
民事訴訟法第五四五条の訴は強制執行の手続に関する訴訟で、確定した債務名義の執行力の排除を求めることにあるのでその請求の趣旨は債権者の為した強制執行を許さない旨の宣言を求むべきものである。これを競売法による不動産の競売手続に準用するならば債権者に競売を求める権利のないことを主張して競売手続の排除を求めることになるからその請求の趣旨は債権者が競売の目的である、不動産に対して為した競売手続を許さない旨の宣言を求むべきものである。而して債務者の請求に関する異議の訴は強制執行に関し債務者を保護するため設けられた規定であるからその訴は形成の訴で強制執行の手続の存続する間のみ許されるものである。これを競売法の競売手続に準用する場合も亦同様である。
然るに相手方が申立人に対して提起した前記訴訟は債権並に根抵当権の不存在の確認及び右根抵当権設定登記の抹消登記手続を訴求するもので直接前記競売手続の排除を求める訴ではない。斯る訴は競売手続の開始前であるとその終結後であると訴訟の利益の存する限り提起することを得べくその訴は確認及び請求の訴である、彼と此とは訴訟の性格を異にする別異の訴である斯る訴を提起して競売手続の停止を求めるならば仮処分の手続にのみよるべきものである。
原裁判所が相手方が申立人に対して提起した前記訴訟を以つて民訴第五四五条を準用する債務者の請求に関する異議の訴と解して民訴第五四七条を準用して競売手続の停止を決定したことは法の適用を過つたものと云わざるを得ない。若し原裁判所の如き見解をとるならば債権並に根抵当権不存在の確認等の本訴の判決を為すとき民事訴訟法第五四八条の準用について債権並に抵当権不存在確認等の実体上の判決に強制執行上の手続に関する仮の処分についての宣言を附さねばならない不合理な結果を生じるのである。
三、尚強制執行停止決定に対して抗告を為し得るかについても異論のあるところであるが、貴庁第八民事部において昭和三八年一月一七日抗告人泰和薬品株式会社相手方中谷恒雄間の昭和三七年(ラ)第四〇号強制執行停止決定に対する抗告事件について民事訴訟法第五四七条第二項による強制執行停止決定は口頭弁論を経ないでなされ且つ強制執行の手続における裁判であるから同法第五五八条により即時抗告を為し得る旨判示せられているところである
四、以上の理由により抗告の趣旨記載の如き決定を仰ぎたく本抗告をする次第である。